Masuk眷属召喚――それは、魔王が初めて行う“配下作成”チュートリアルらしい。
核としての魔力が満ちきったタイミングで、世界の声が言った。 《それでは、眷属召喚を開始してください。意識を集中し、あなたの魔力を流し込むように》 いや、ざっくりすぎだろ。集中って言われても、こちとら石ころなんだぞ。 とはいえ、やるしかない。ぐっと意識を内側へ集中させていくと―― ――ドクン。 何かが“脈打った”感覚があった。 そしてその瞬間、俺の核のすぐ目の前に、漆黒の魔方陣が浮かび上がる。 「おお……!」 空気が張り詰める。魔力の奔流が発生し、周囲の岩盤がわずかに振動する。 やがて魔方陣の中心から、ゆっくりと“それ”が姿を現した。 すらりと伸びた足、腰まで届く金色の髪。 肌は雪のように白く、目元は涼しげで――完璧なまでに整った顔立ち。 美人とかそういうレベルじゃない。もはや芸術の域。 ただし、その表情は終始無表情で、まるで石像みたいだ。 「……私の名はレイラ。始祖のヴァンパイアです」 静かに、でも凛とした声が洞窟に響く。 始祖の……ヴァンパイア? すげえ。なんか強そう。 強いどころかラスボス寄りな雰囲気すらある。 だけど―― 「……それにしても、魔王のくせに石ころとは。”これ”が|主《マスター》とは情けないですね」 「えぇ……。なんか思ってたのと違う、俺の身体と一緒でなんか思ってたのと違う……」 「言い訳をする姿も滑稽ですね。まあ……姿形よりも“核”の質の方が重要。私を呼び出せる程ですし、特別に良しとしましょう」 なんでこの美人さん、こんな毒舌なの!? 初対面でバッサリきますやん……。 《初期眷属とのリンクを確認しました。これより、ダンジョン構築の基本操作を開示します》 場の空気もクソもないタイミングで、またあの脳内ナビがしゃしゃってきた。 でもありがたい。こっちは素人もいいところだからな。 《魔王は、ダンジョンに侵入した者を討伐することで、経験値と拡張ポイントを獲得できます》 《討伐対象の強さに比例して獲得値が上昇します。討伐は、眷属・配下による撃破。罠による撃破でも同様にカウントされます》 つまり……配下をこき使って、強い冒険者を倒せば俺が強くなる――ってことか? 「つまり、ブラック企業と同じ原理ですね」 「あ、その言葉使わないで。泣きたくなるから」 「ならば、せめてボーナス制度を設けて――」 「俺も貰ったことねぇよッ!」 俺たちのやり取りを気にもせず説明が続く。 《次に、ダンジョンステータスを確認してください。“ダンジョンステータス”と唱えるとウィンドウが開きます》 言われた通り、唱えてみる。 「ダンジョンステータス」 ピコン、と軽快な音が響き、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。 ────────────────── 【ダンジョンステータス】 名前:未設定(※初期値) 階層数:1 配下数:1(レイラ) 魔物数:0 罠設置数:0 拡張ポイント:10 経験値:0/100 ────────────────── ウィンドウを眺めながら、世界の声が続けざまにナビをしてくる。 《まずは、拡張ポイントを使用してダンジョンの階層を増設してください》 「よっしゃ、レッツDIY。迷路とかにすりゃ強いんだろ?」 《その通りです。地形を複雑化することで、侵入者の進行を大幅に遅延させることができます》 「じゃあ……こうして、こう。分岐を三つ作って、こっちに落とし穴、あっちに毒沼……」 ウィンドウ上の簡易マップを操作するだけで、岩盤がゴゴゴ……と音を立てて勝手に動いていく。 うん、これ楽しいな。ちょっと昔のゲームを思い出す。 社会のストレスをここにぶつけろって感じで、バリバリ罠を仕掛けてやるぜ……へへっ。 俺のイメージに沿って地形が変わっていく。 作り上げていくダンジョン構造を見ながら、なんかレイラが引き気味に目を細めているが気にしない、気にしない。 むしろ、その反応になんかちょっとテンションが上がる自分がいる。やべえな俺。 《罠の設置完了を確認しました。次に、初期魔物の召喚を行ってください。ゴブリンなど低ランクの魔物が推奨されます》 「じゃあ、ゴブリンで。とりあえず三体……っと」 またしても魔方陣が展開され、緑色の肌をした小柄な人型モンスターが三体、ぴょこぴょこと出てくる。 「グギャ!」「ギャギャギャ!」「オレ、ボス、マモル!」 うるせぇなコイツら。見た目も喋りもチンピラ感すごい。 「ん? まてよ。さすがに三体は少なすぎか?」 俺が思わず不安を口にすると、レイラが腕を組みながらちらりとこっちを見た。 「……心配いりません。私がいれば、それで十分です」 どこまでもブレない無表情。そのドヤ顔ゼロの自信っぷりが、逆に説得力を生んでるのが悔しい。 《補足します。レイラは“始祖のヴァンパイア”であり、魔族の上位存在――“魔人”に匹敵する戦闘力を有しています》 「えっ、そんな強キャラだったの!?」 「当然です。契約主が石ころでなければ、もう少し説得力もあったんですが」 「石ころでごめんね?!」 《あ、そろそろ初の侵入者がダンジョンへ進入します》 「えっ、はやっ!? 待って、まだこっちは石のまま――」 そのとき、入口近くの転移陣が光を放ち、足音が響いた。 ガチャリと扉が開く音――そして、若い男の声が洞窟に反響する。 「ここが、例の新規ダンジョンか……へへっ、悪いが先に攻略して稼がせてもらうぜ」 レイラが、ちらと視線をその方向へ向ける。 「ふふ、出番ですね。では、早速いってきます」 その姿は、闇の中へと音もなく溶けていった。 おいおい、こんなチュートリアルでいいのか? まさか“初仕事”が、いきなり命懸けだなんて聞いてないんだけど…… やっぱり、どこまでいってもブラック企業じゃねーか! 俺は、何もできない“しゃべる石ころ”のまま、ただただ、血と闇が交差する戦場の幕開けを――見届けるしかなかった。 ……うん、これは確実に労基案件だ。 ◆ ――“魔王”としての人生は、まだ始まったばかり。 だがすでに、予感だけはあった。 この世界の底で、俺――いや、“ヴァルト・ノクス”が、確実に爪を研ぎ始めているということを。咆哮が響き渡る。 ゼトスは巨躯を揺らし、氷嵐や雷撃と連携しながら魔物どもを蹴散らしていた。 爪を薙げば、骨と肉が爆ぜ飛ぶ。 雷を纏ったゼトスの突進が、百を超える魔物を灰燼に帰す。 リルベアの黒炎が一帯を焼き、レイラの氷刃は嵐のように舞い、触れたものを瞬時に凍り砕く。 三人の戦線はまさに鉄壁――だが、それでも群れは尽きない。 切り裂いたそばから背後を塞ぎ、焼き払ったはずの死骸を踏み台に新たな群れが押し寄せてくる。 終わりが見えぬ奔流は、まるでこの空間そのものが魔物を吐き出しているかのようだった。 このままでは……長くは持たん……! リルベアの胸に焦燥が募る。 しかし繭を背に下がることなど許されぬ。退けば、それはすなわちこの世の終わりを意味する。 ――悪食の触手が振り下ろされる。 腐臭を纏った漆黒の鞭が、空気を切り裂き大地を抉った。「ッ!」 リルベアが地を砕きながら飛び退き、レイラとゼトスが同時に魔法を放った。「《氷棘牢陣(フロスト・プリズン)》!」「《雷轟衝波(サンダー・バースト)》!」 雷と氷が絡み合い、触手を焼き裂きながら群れを押し戻す。 絶叫と轟音が重なり、戦場の空気は灼熱と極寒が入り混じる。 だが、押し返しても押し返しても、群れは膨れ上がるばかりだった。 リルベアの息が荒い。 肩で息をし、毛並みの間から汗とも血ともつかぬ液が滲み出ている。 ゼトスの額には無数の焦げ跡が浮かび、雷撃の輝きは先ほどよりも鈍い。 レイラの頬も青白く、魔力の糸を無理やり繋ぎとめているのが目に見えてわかった。 気づけば、魔力の枯渇がすぐそこまで迫っていた。 ……まずいな。わらわとて限界が近い……! リルベアの魔法発動に遅延が出始め疲弊が顕著に表れる。 レイラの雷光は散り散りに弾け、ゼトスの氷刃も強度を保てなくなっていた。
――その頃、ダンジョン内。 繭となったヴァルトを護るように、リルベアは広範囲魔法を連発しながら魔物どもを蹴散らしていた。 魔法が発動するたびに数百体が霧散する。 だが、それでも群れは押し寄せ続ける。まるで尽きぬ黒き波のごとく。 さらに悪食の触手が、容赦なく襲いかかってくる。 腐臭と粘液を纏い、地を穿ちながら迫る猛攻。 リルベアは寸前でかわし、巨大な魔槍を叩き込む。だが――。 流石に数が多すぎる……! 絶え間ない攻撃の連続に、次第に呼吸が荒くなる。疲労で反応が遅れた刹那、触手の一本が音を裂いて迫った。「しまッ――!」 リルベアの瞳が見開かれる。少しの油断だった。 間に合わない。貫かれる――そう思った瞬間。 後方から二つの魔力反応が爆ぜた。「|氷穿槍乱舞《アイシクル・ランページ》!」「|疾風裂斬陣《テンペスト・レイザー》!」 氷槍と風刃が同時に放たれ、触手ごと魔物の群れを薙ぎ払った。 粉砕音と絶叫が響き渡り、リルベアの視界が一気に開ける。「遅くなりました、リルベア様」「ただいま戻りましたぞ!」 振り返れば、戦線離脱していたレイラとゼトスの姿があった。「っかか! よく戻った! おかげで助けられたわ!」 リルベアは声を弾ませ、体勢を整える。 その傍らで、レイラの視線が美月の横たわる姿を捕らえた。 僅かな一瞥――だが、全てを察したように瞳が揺れる。「美月……。こんなところで眠っている場合じゃないでしょう……私たちの決着は、まだ――」 悔しさと悲しさが入り混じった声。振り返らずとも、震える声の奥に涙が滲んでいるのは明らかだった。「まだ戦いは終わっとらんぞ。ヴァルトが戻ってくるまで、持ちこたえるのじゃ!」 リルベアの叱咤に、二人は強く頷いた。「リルベア様、もしかして……あの繭は
――真っ暗な意識の中、声が響いた。『“システム上”あるとはいえ、まさかランクアップを願うとは思いませんでしたよ。魔王ヴァルト・ノクス――いえ、黒川 陣』 ……この声、どこかで。 どこで聞いたんだっけ――。 あ。そうだ。 これは――世界の声だ。 その響きに引き寄せられるように、ぼやけていた意識が澄み渡っていく。 やがて視界がひらけ、そこに広がっていたのは、何もない真っ白な空間だった。 果てしなく続く光の中、その先に一人の女性が佇んでいる。 白い布で身を包みつつも、その布では隠しきれないほどの美しい肉体。 全身から漂う神々しさが、ただ立っているだけで圧倒的な存在感を生み出していた。「……あなたは」 思わず言葉を漏らす俺に、彼女は凛とした表情を向ける。「私は“世界の声”の主。貴方たちの言葉で言えば――女神、といったところでしょうか」 澄み切った声は耳にすっと入り込み、胸を震わせる。「――何故、ランクアップをしたいと願うのです? 貴方は既に存在し得る者としては最上位。命をかけてまで、何になろうというのです」 何になる、だと? ……そんなのわかんねぇよ。 ただ――。 俺は、自由に生きたいだけだ。 俺を慕ってくれる仲間達と、平和に笑って過ごしたいだけなんだ。 理不尽に奪われるのも、無力に嘆くしかできない自分自身も―― 愛した人ひとりすら守れなかった現実も―― 全部、クソ喰らえだッ! その全てをぶっ壊し、捻じ曲げてでも、ただ自分の理想の平和を手に入れる。 そのための力が、どうしても欲しい。 少しの沈黙のあと、胸の奥からあふれた感情のままに言葉を吐いた。「俺は――神になりたい」 なんの曇りもない言葉だった。 女神を真っ直ぐに見据え、
「――美月っ!! リアぁッ!!」 咄嗟に声が喉を裂いた。 鋭く尖った触手が二人を貫き、そのまま本体へと引きずり込もうと蠢く。 俺は考えるよりも早く、剣を振り抜いていた。 金属が擦れるような甲高い音と共に、触手が両断される。 黒い液体が飛び散り、焼けるような臭いが辺りに立ちこめた。 倒れかけた二人を抱き留め、すぐさま後方へ跳ぶ。 背後では切り落とした触手がのたうち、石床をえぐっていた。「……くっ……」 リルベアの身体からはまだ血が流れていたが、徐々に傷口が塞がっていく。 再生の速度は遅いが、意識ははっきりしている。 だが、美月は――。「美月! おい、美月ッ! 返事をしろ!」 声をかけても、彼女の瞳は焦点を結ばない。 胸を貫かれた傷口からは血があふれ、衣服を真紅に染めていく。 勇者の力を持っていても、彼女は結局ただの人間だ。 俺たちのような異形の再生もなければ、魔王の因子もない。 生身の人間は、脆い。 その現実が、皮肉のように突き刺さる。「嘘だろ……おい……!」 何度も肩を揺さぶる。 けれど、返事はなく、ただ虚ろな瞳が宙を彷徨うだけ。「っく……ヴァルト」 リルベアの声が、痛々しいほど静かに響く。「美月は、もう……」「やめろ!」 首を横に振る。耳を塞ぎたかった。 ありえない。こんな結末があっていいはずがない。 心の中で同じ言葉を何度も繰り返す。 だが現実は、残酷に俺の腕の中に横たわっていた。「っ!」 気づけば、視界が滲んでいた。 熱いものが頬を伝い落ちていく。 ――俺は、ずっと気付かないふりをしてきた。 出会ってそんなに日は経っていないかもしれない。 それでも、それな
悪食は蠢きながら進行を続けていた。 黒い泥のような肉体が脈動し、ぬるりと形を変えながら触手を伸ばす。 一本一本が生き物のように蠢き、獲物を探る蛇の舌のように空気を舐めていた。 その触手に絡め取られた魔物たちは、悲鳴を上げる間もなく崩れていく。 牙を剥いた狼も、鋼鱗を纏った竜の幼体も、翼を広げた怪鳥も――例外なく一瞬で溶け落ち、形を失った。 骨も肉も魔力も、ただの液体へと変わり、どろりと悪食の本体へ吸い込まれていく。 魔物たちの断末魔が重なり、耳にこびりつく。「……魔物を……食べてる……?」 美月が、信じられないものを見たように、かすれた声で呟いた。 彼女の瞳は恐怖と嫌悪に震えている。「そうじゃ」 リルベアが低く答える。 その声音には皮肉も余裕もなく、ただ冷徹な響きだけがあった。「喰らうことでその者の力を奪い、吸収して進化する。それが――悪食じゃ」 言葉を聞いた美月は硬直し、白い喉がこくりと上下する。 唾を飲み込む音がやけに大きく、緊張を際立たせた。 俺は奥歯を噛み締め、額に滲む汗を拭うこともできずに口を開いた。「……本気でやりあったとして、俺達に勝機はあるか?」 答えを聞きたくはなかった。 だが、聞かずにはいられなかった。 そして返ってきたのは――期待を粉々に砕く、あまりにも冷たい言葉。「ないな」 リルベアの瞳が、曇りなく俺を見据えていた。「あやつは既に多くの魔物を吸収し始めておる。その中には……クゼスや、男勇者も入っておるじゃろう。絶対に勝てん」 短く、断言された。 その一言は心臓を素手で掴まれたかのように重く、呼吸が止まりそうになった。 沈黙が三人の間に広がる。 重苦しく、逃げ場のない空気。 やがてリルベアがその沈黙を切り
魔素が収縮を始めた。 赤黒い霧が渦を巻き、空間の中心へと集束していく。 その密度はもはや大気ではない。鉄の塊を肺に押し込まれるような重苦しさに、呼吸一つが難しい。 パキン、と乾いた音。 フロアの空間そのものに、蜘蛛の巣状の亀裂が走った。 黒い線が四方に伸び、床も壁も天井もひび割れた鏡のように歪む。「なんなんだ、あれ……!」 思わず声が漏れた。 これはただの魔法や結界の崩壊ではない。世界そのものが割れ、外側にある何かが押し寄せてきている。 美月は青ざめた顔で剣を握りしめ、肩を震わせている。 彼女の光の剣すら、濁った空気の中で輝きを弱めていた。「始まりよったか……」 リルベアの声が静かに響いた。 いつもの皮肉も余裕もない、緊張を帯びた声音。 黄色の瞳に強い決意の光が宿る。「ヴァルトよ、悪いが――ダンジョンを作り変えるぞ」「はぁ!? 今そんな――」 驚愕する俺をよそに、リルベアは即座にモニターへと手を伸ばした。 指先が走り、無数の符号と魔術式が空間に浮かび上がる。「っ……揺れるッ!」 美月が小さく悲鳴を上げ、よろめいた。 直後、ダンジョン全体が大きく震えた。轟音と共に床が波打ち、壁がせり上がる。 フロアは裂け、視界がぐにゃりと歪む。 次の瞬間――目の前に広がったのは、見渡す限りの超巨大空間だった。 天井は高すぎて霞み、壁は遥か彼方。 まるで別世界を丸ごと切り取ったかのような光景に、息が詰まる。「美月、大丈夫か!?」 彼女の腕を掴んで支えながら、俺は叫んだ。「リア、一体何をやったんだ!?」 リルベアは一度だけ振り返り、冷ややかに答える。「ダンジョン内の下等生物どもを強制的に外へ排出し、五階層までの空間を一つに集約したのじゃ」「なっ……!? なんでそんなこ
画面の奥には、俺の“ダンジョン”の全体図が浮かび上がっていた。 その地図を眺めながら、俺は腕――いや、正確には核だから腕はないけど――まぁそういう感じで考え込む。 やるなら、徹底的にやってやろうじゃねぇか。「まずは階層を増やす。これだけ侵入者が増えてるなら、ワンフロアで収まるわけがないしな」 そう呟きながら、構築開始。 今ある空間の下層に、新たな階層を次々と追加していく。 しかも、ただの迷路じゃ芸がない。 ニ層目は錯視を利用した視覚トラップ中心の構造。
……眩しい。 まぶたの裏に差し込んできた柔らかな光に、ゆっくりと意識が引き戻されていく。 なんだろう、この感覚……眠っていた? 俺が? まるで数日間、何もかもを忘れて眠っていたかのような――。「……ぐぅ、すぅ……むにゃ……」 ふと耳に届いた微かな寝息に目を開けると、視界の端に見慣れた金色の髪が映った。 空間の片隅。石造りの壁際に座り込んでいるのは、我が眷属・レイラだった。 相変わらずの無表情……って、寝てる!? 驚きつつも、その寝顔が
ダンジョンの最深部――俺、ヴァルト・ノクスの“核”が鎮座するこの空間は、相変わらず静かだ。 目の前に立つのは、相変わらず無表情で毒舌な美女、眷属のレイラ。 静寂を破ったのは、そんな彼女の淡々とした一言だった。「……それにしても、あの冒険者、思った以上に弱かったですね。反応も遅いし、攻撃も単調で」 いやいや、普通に強かったと思うんだけど? 俺の罠とゴブリンくんたちなんか“秒殺”されてたぞ。 「弱くはないと思うんだけどなぁ。ほら、召喚したゴブリンくんたち瞬殺されちゃったし」
レイラがずんずんと通路の奥へ進んでいく。その背中を、俺は観察用のモニター越しに見送っていた。 世界の声の案内でダンジョンの監視用インターフェースを開き、ようやく慣れ始めたウィンドウ操作をこなしながら、ふと気づく。 ……ていうか、俺が最初に設置した罠とかゴブリンたち、あれ全然意味なかったんじゃ? その疑念はすぐに現実になる。 最初の侵入者――黒髪の冒険者が現れ、俺が丁寧に配置した罠を、まるで散歩でもするように突破していったのだ。 落とし穴はひょいと飛び越え、毒針は携えた小型盾で難なく弾